流れで情報を整える
続いて、答えのない問題の情報収集についてお伝えします。
答えのない問題と言われてもピンとこない方が多いと思いますので、例を使って説明いたします。
顧客A社から新しい商談としてB製品のお話を頂いたとします。弊社の取り扱っている半導体製造装置は非常に複雑な産業機械で、また、化合物半導体という材料を取り扱うことから、顧客ごとに要望が異なり、カタログ仕様の標準ではまかないきれない要望を求められるときがあります。
最初の相談段階では、A社自身もB製品がA社の需要に合うかどうかを模索している状態ですし、弊社としてもこの商談が見積もりや特殊要望特の調査にリソースを割く価値があるものかどうかを判断しないといけません。
この商談を受けるのか受けないのか、どのぐらいリソースを割くべきか、これはあらかじめ決まった答えはない「答えのない問題」と分類できます。答えを新たに作っていく類の問題、と言い換えることができると思います。
こういったケースでは以下のようなフレームでまず状況を整理します。
フレーム1:過去にA社の要求を満たしたB製品の実績がある
フレーム2:過去にA社の要求を満たしたB製品の実績がない
フレーム3:過去にA社の要求を満たしたB製品の実績があるかどうかわからない
フレーム1〜3はMECE(もれなくダブりなく)ができているので、大(全体)を3つに分解しています。すなわち大→小の流れで情報を整理しています。

フレーム1はCASE1で述べた答えのある問題です。手元の情報を整理して価格、納期はある程度の確度で出せます。その情報をA社に示すことで、次の情報収集、すなわち、A社の観点からのB製品の仕様・価格・納期の適切性や、A社の予算・計画などを知ることができます。
フレーム2のケースであれば、手元の情報からフェルミ推定をします。フェルミ推定というのは、「今世界で睡眠を取っている人は何人いますか」というような、わからないことを定量的に推定する方法です。単純に、人は一日に8時間程度睡眠を取りますから、8時間/24時間×世界の人口である程度の確度を持つ数値が出ます。太平洋のど真ん中が昼か夜か、という寄与も大きいでしょう。そういう形で、いくつかの側面から定量的なフェルミ推定、時には定性的な他の方法の推定を行い、フレーム1と同様にA社にその推定をあててみて反応を見ることで、次第に商談の優先度や進める上でのポイントが絞れていきます。
フレーム3のケースも、基本はフレーム2と同様に進めますが、並行して社内のベテラン社員などにヒアリングをかけていきます。
フェルミ推定は難しいと思いますが、そういった方法を意識しながら業務経験を積んでいけばできるようになります。
上記の手順は、顧客からの問い合わせ→弊社の一次回答→顧客の抱える具体的な要望や予算、計画の調査というかたちで、時間を追って精度を上げていますので、時間軸で情報を集めています。
上述の例とは逆に、いきなり小さな所、すなわち、すべての商談において最初からB製品の仕様・価格・納期の情報を完璧に集めようとするのは効率が良いとはいえません。また、時間軸を無視して、弊社からの情報を出さずに顧客からの情報を取ることに専念すると、顧客も不安がってしまうことがあり、次の展開にスムーズに移行できなくなる恐れがあります。
上記は私の実務を通した例ですが、MBA的というか、経営者的な視点で言えば、大きな情報、時間軸というのは市場規模や自社のシェアの四半期ごとの推移や、国別の市況の変化を見たりすることになります。
価値ある情報を探すための取捨選択
「大→小」「時間軸」と並んで大切なのは「情報の取捨選択と重み付け」です。
イメージとして「情報の深まり」と「情報の広がり」の2軸をとって考えてみましょう。下記の図のようにまんべんなく面が広がっていくような情報収集では、時間とお金がいくらあっても足りません。
私の業務で例えれば、細かい仕様などは私も知らないことがあるので、エンジニアに問い合わせます。しかし、時には新たに予算を組んで調査・実験をして調べなければ得られないデータが必要なこともあります。したがって、わからないことをすべて完璧に調べようと手配していては、私もエンジニアもパンクしてしまいますし、締切に間に合わなかったり、ときには社内外のチームワークを乱してしまいます。
他方、効率的な情報収集のイメージは以下のようないびつな形をしています。一部の情報項目については深く掘っていき、それ以外は途中で収集を思い切って止めてしまうのです。
では、どこを深掘りし、どこを止めるべきか、という事が重要となりますが、そこは先程述べた、わかっていること、推定、顧客の反応の3つから判断します。この3つを組み合わせてクイックに情報収集を回すこと繰り返し、短期間で深掘りすべき課題を明らかにしていきます。
その結果、当初の「商談を受けるのか受けないのか、どのぐらいリソースを割くべきか」という、ぼやっとした問題が、「○○という特性を△△の条件下で、□□の予算内で▽▽までに出来るかどうか」という焦点の絞れた課題にまで落とし込むことが可能となり、計画性を持つようになってきます。
決めた答えを正しくする
もはや絶対解が存在しない世の中においては「決める」ことと、決めたらそれが「正しくなるように努力する」ことの方がはるかに重要です。失敗したらどうしよう、間違っていたらどうしようと、どんなに分析を深めたとしても、決めることにおいて不安は常につきものですし、どんなに完璧と考えた判断や計画でも、実行に移したら必ず壁にぶつかります。
ですので、デッドラインまで最善を尽くして自分なりの最適解を出し、それからは突破力に集中しようとう「覚悟」を持つようにしています。