私は現在、地域金融機関を顧客とするSierにて開発のプロジェクトリーダーとして働いています。社員数が100数十名の規模でありながら大手Sierを競合とするため、一人あたりの業務の専門特化度合いが強くなり、かつその専門分野の数も多くはありません。私の場合はメインで担当する分野が1つ、サブ的に担当する分野が2つ程に限定されています。
忙しい日々の中で10数年変わらぬ業務をしながら年数を経ていくことに対し、何かくすぶっているものを感じたのが30代後半。しかし忙しい職場でキャリアの方向性について考える余裕などありません。でもいずれ経営に携わりたいという思いが根底にあり、それにはMBAで確かな知見を持たないと昨今の業績不振や不祥事を起こす企業のようになってしまうと感じていました。つまり目先の仕事以外からも学びが必要であり、例えば客観的に見て自社の経営戦略が今の時代に合っているのかを検証することが必要だと感じました。それには論理的・構造的に考えてアウトプットする力が重要です。しかしMBAを目指すことは自分には難易度が高いと考えて、入学を決断するまでに数年かかりました。それまでの間、オープンカレッジの問題解決力トレーニングプログラムの基礎と実践を受講し、トライを重ねていくうちに何とか大学院でやっていけるかもしれないと思うようになりました。
他校のように通学することは、時間的に難しく最初から選択肢にありませんでした。また20代の頃から大前学長の著書を多く読んできており、定期的に発行される連載記事全てに目を通して来たためBBT大学院以外は考えられなかったですね。さらに入学してから実感したこととして必修科目、選択科目の教授陣においては著名な実務家や現役の経営者が多く、そこには学問を超えた実践があり、ひたすら考えて発言し、ディスカッションしていく形式で進められ、意義がありました。また発言する人の数×回数はサイバー空間であるため制限がなく、一科目一日あたり数十件から多いときは100件以上になることもあります。実際の教室ですと授業時間との兼ね合いから発言回数が制限されますが、サイバー空間では発言の自由度が高いことも魅力です。
大前学長の科目の中に「輪読会」というものがあり、教材として大前学長著書の『企業参謀』や『新・資本論』、『マッキンゼー 現代の経営戦略』などを読み込んでから一定の課題に基づいて議論をしていく内容です。これは1年次は他の科目で手一杯のため、いつも締め切り間際に発言する悪い循環で取り組んでいました。しかし2年次は一念発起して早めに読み込んで議論に参加し、クラスメートからの指摘や別の角度からの発言に大いに刺激を受け、さらに読み込むと新たな気づきがありました。この繰り返しによって自分の中での読書観が変わりました。今までこういった本の読み方をしたことがなく、『新・資本論』に至ってはあの分厚い本を2001年発売当時に自分でも買って読み通しましたが、この輪読会で初めて理解できたことや気づきが多かったです。
『企業再生論』という科目では、実在する企業が生きるか死ぬかの危機的状況でありながら、これを立て直した余語先生の授業が強烈な印象で、ためになりました。当時の混乱した社内や取り巻く環境下であっても、コア・ビジネスを軸に冷静に問題解決の手法に沿って立て直していくプロセスを講義で聴けて、真の「生きた教材」だと感じました。
またもう一つ挙げるとすれば「RTOCS(Real Time Online CaseStudy)」、いわゆるBBT大学院独自のケース・スタディです。今岐路に立たされている企業が課題となり、これからの成長戦略を描く解決策を1週間考え抜いてレポートを提出しますが、この解説を大前学長が毎週日曜夜にします。私は当初なかなか順応できず、かなり苦しみましたが、これこそが本学MBAの胆だと思い真正面から取り組みました。泥臭く市場規模や競合シェア、自社の財務などを全てチャート化し、プレゼン資料を毎週作り上げていく力がつきました。
それまで学んできた小中学校から大学に至るまでの教育や自分なりの読書遍歴では、完全にインプット重視の人生でした。職場においても「いかに知っているか」、「どれほど多くの経験をしてきたか」だけが大事とされている中で、BBT大学院で身に付けたのは議論する力により最適解に導く手法であったり、自分が知らないことがあっても臆せずディスカッションし、わからないことは即座に調べ上げて要は何が言えるのかということをアウトプットすることが重要でした。するとディスカッションを始めた当初には思いもよらない打ち手を、深い洞察に裏付けられて打ち出すことができます。またアウトプットする先に意識の高いクラスメートがいることで自然とモチベーションが上がっていきます。
一日は24時間。当たり前のことにも関わらず、この事実の重さを痛感しました。最終的に仕事と家族との時間は一定程度必要ですし、そこから睡眠時間を引いて正味どのくらい勉強できるのかを毎日計算していました。「時間がないから今日この課題はやらない」という先送りを一度してしまうと、あとからキャッチアップするのがすごく大変だからです。よって私の場合は仕事や家族の時間を睨みつつ(ほどほどに抑えて(笑))、さらに勉強以外のプライベートは基本的に封印しました。理由は在学2年でやり抜くという強い決意があり、また課題一つをこなすのに多くの時間を要することがわかってきたため、身の丈を考えてあまり遊ばず2年間を駆け抜けました。しかし年間に成績対象外の期間が2~3ヶ月ほどあるため、その期間は封印していたものを解放していました。
勉強時間を捻出するための日々の時間のやりくりに苦闘し続け、これについてはゴールがなかったと思います。ひたすら空いた時間がないか、今週はどこでまとまった時間を捻出し手持ちの課題や論文を片付けるかを、通勤電車の中やちょっとした時間にスマホのToDoリストに登録して忘れないようにしていました。でも一つこなしてToDoリストから消し込むことにちょっとした達成感もあり、メンタルも充実させたことが継続のコツかもしれません。
あとは発言の回数が各科目で最低ラインの指定をされているため、追いついていない科目の発言を通勤電車の中でよくスマホからしていました。例えば帰りの電車で発言途中で下りるべき駅に着いてしまい、慌てて電車を出てから駅のベンチに座って発言の続きをすることがありました。当時は必死で取り組んでいたのだとは思いますが、今考えると少し異様な光景でもあり、いい思い出です。
職場では仕事について話し合いから雑談に至るまで、何が事実でどの部分のファクトが弱いのかを見極める癖がつき、よって議論がどういう方向に進んでいるのかがはっきり見えるようになりました。顧客との会話においても同様ですので、打ち合わせが短時間で済んでいます。これは実践により事実を積み上げていって本質的な問題を発見しようとする姿勢が、無意識にできるようになったと思います。
仕事でもプライベートでも、それまでは自分の知らないことを話題にされると億劫になりがちでした。しかし人が口にすることは事実もあり、思い込みもあり、ハロー効果で解釈されていたりといろんな要素が混在しています。もちろん仕事では事実の占める割合が多いですが、そうでないものが少し混じっているだけで全体がおかしな方向に向かうことはあります。よってひたすら事実だけを拾い集め自分の頭の中で帰納的に考えをまとめ上げる癖がつきました。
また在学中は考え抜いて発言し、これをクラスメートと議論することで大きな刺激を受けて自分自身にエンジンがかかりました。これは独りで勉強してもモチベーションの点で長続きしないという問題への気づきとなり、仕事でもプライベートでも応用が効いています。
経営者は3つの目で見て判断していくことが重要だと言われます。つまり鳥の目で大所高所から全体を俯瞰し、虫の目で現場レベルの詳細を見て、その上で魚の目で時代の流れをつかみながらチャンスを逃さないことです。責任は重いですが、この3つの目で見られる立ち位置に立つことが目標です。
また在学中の『イノベーション』という科目の中で「構想力」について学びました。これは普通の人には今見えていないものを時代の流れから構想し事業を起こしていく力ですが、先の3つの目と重なる部分もあるため、構想力をつけていくことも目標としています。
私は入学を決断するまで時間がかかり、何度も説明会に足を運んでいました。授業が難しい上に学費も安くないですし、子どもも小さかったため家庭を犠牲したくないこと、仕事も忙しいことなど、諦めたり先延ばしする理由はいくらでもありました。しかし入学する人の平均年齢が例年38歳くらいと聞いて、その時既に40歳になっていた私は「あのとき挑戦しておけば良かった」という後悔の人生になりかけていると感じました。そこからの決断は早かったです。
実際入学してからの勉強量は大変ですし、時間のやりくりなど苦労も多いですが、あのとき思い切ってチャレンジして良かったと心底思います。決断したことの満足感と、無事に卒業できたことでこの上ない達成感を得ることができました。入学してしまえばやる気に満ち溢れた、意識の高いクラスメートがたくさんいますので、お互いに刺激し合って頑張ってください。