世界最大の医薬品受託製造企業のアジア進出に際し、アジアでのバイオ医薬品関連事業開発の責任者を務めています。製造業としては遅れた製薬業界、さらに欧米に比して10年ほど遅れた日本のバイオ医薬品生産について、最新の技術と概念を持って日本への貢献をしています。日本からのグローバル化を目指す企業から、完全にグローバル化した企業を経て今のアジアへのグローバル化を目指す企業へと職を変わったこと、さらにはそれぞれで研究職、セールス&マーケティング、事業開発に現場でかかわったことから、期せずして「現場からの下から目線で広く製薬業界を知る」ことができました。加えて、武田薬品勤務時代に7年かけて作成したある生物学研究の基礎理論と解析ソフトウェアについて、丸ごと個人へ譲渡いただきました。このソフトウェアを利用した副業を立ち上げ、究極的には武田薬品時代の社内ベンチャー企業を本当の企業とすべく取り組んでいます。
当時、武田薬品に勤務しておりまして、自身が提案したある創薬ビジネスモデルについてそれを実現する社内ベンチャー企業のようなものを主導しておりました。日々その実現について研究するのはもちろんですが、さまざまな社内・社外の協力者とのコミュニケーションと、さらには最終的なスピンアウトイメージについてまで、ビジネス的な考え方をより必要といたしました。本学での学びに先立ちまして、社内においてビジネスを学ぶ長期研修を受けたこともあり、その無理のない延長として、より包括的なビジネスの学習およびその結果としてのMBA取得を考えました。
そもそも、社会で就業している社会人が、ビジネスを学ぶために職を離れるという矛盾から、ビジネスを学校で学ぶということには否定的でした。BBT大学院については、働きながら学ぶことができるという矛盾もなく、当然に日々の生活にも活用していけるためにBBT大学院へ決めました。
どの科目というより、インターネットを利用した学習がそもそも苦手でした。僕自身は特許を出せる程度にはソフトウェアの作成技術を持ちますが、本学を学ぶと決めた時に初めてインターネットを接続したように、プライベートでは全くネットを利用をしていませんでした。当然にSNS等もまったく利用しない僕ですが、恒常的に掲示板等に書き込まねばならない本学の学習は精神的に大いなる苦痛でした。これは克服できるようなものではなかったのですが、とにかく計画を立てて策を練り一日一日と学習を積み上げて卒業に至りました。
大前研一ライブについては、何よりも時事に沿った内容についてご見解を聞ける点が何より興味深かったです。決して何らかの答えをすぐに得られるような科目ではありませんが、過去の事例や出版物では学べない現実の世界のようすは、何よりも思考力を鍛えたと思います。
僕自身は、外国での研究生活を含め、産業界と学術界の双方において非常に幅広い科学の教育を受けてきました。一方で、社会においては科学とはまた違ったビジネスの常識などがあることも知ってはいました。なぜか科学の常識を知りすぎると、(それが真理を扱うものであるからか)社会の常識を軽視する傾向があるとわかってはいました。結果的に、本学において新しい価値観、新しい知識と出会ったことは、僕の偏った姿勢を正すことになりました。理解していることと、納得していること・体感していることは全く異なりますので、強制的に浴びる2年間のビジネスの滝は、特に研究者としての自分を叩き直すために大変効果的でした。
当時、僕はつくばの研究所に勤務しておりまして、結果的に自宅のある東京からの単身赴任という形にしていました。時には平日でも自宅に帰りましたが、平日夜間はおおむね学習にあてました。一方、休日の自宅での生活には一切学習を持ち込まず、こうしたメリハリが集中力の持続につながったのかもしれません。また、平日も仕事と学習だけでは滅入ってしまいますので、毎日40分は歩き、週に3-4回は水泳をしていました。今から考えますと、単身赴任中はBBTでの学習に最適かもしれません!
上記にも記載した通り、インターネットを利用したコミュニケーションは僕にとってあまりに苦痛でした。学びの中に動画等の映像はありますが、あくまで一方通行で、その他の掲示板的な文字だけの双方向的コミュニケーションは、精神的に大いに疲弊しました。
本学で学びましたことは、ビジネスの世界の基礎的な部分だと思います。結果として、ビジネスの世界の常識・共通言語を学ぶことができ、自分の考えをその言語にて語ることで、僕の意図するところをよりたくさんの方に理解いただけるようになりました。別の言い方をしますと、(たとえば)科学的な話を、ビジネスの方がたに通用するように「翻訳」して話すことができるようになりました。これは、ハイテクバイオベンチャー企業等の立ち上げに関していえばとても有利なのではないかと思います。さらに今の会社においても、科学の色が濃いバイオ医薬品の業界について実ビジネスを立ち上げるわけですから、科学の専門家ともビジネスの専門家ともコミュニケーションする必要があります。ここにおいても日々、liaison的役割をするにあたって大変役立っています。
MBAの取得前でも、僕はビジネス的なマインドを活用して社内ベンチャー企業を運営していました。MBAを取得することで、研究だけなくビジネス的な考え方も受け入れる人であることがわかりやすくなったのでしょうか、誤解を受けることが少なくなり僕自身に平安をもたらしました。また、それまでも大阪大学にて招へい准教授を兼任するなど教育との接点はありましたが、それはあくまで科学の研究が主でした。一方、MBAを取得してからのちは、東京工業大学の非常勤講師(社会と企業のあり方についての特別講義)を兼任するほか、各種のセミナーでビジネスについての講師をつとめる機会をいただくことも多く、より社会近いところで貢献できている気がします。自分がさまざまな方から受けた恩を、社会にお返しすることができて大変うれしく思っています。こうした変化は、ちょうどビジネスを系統だてて学び、その結果を得たことで始まったと思っています。
情報工学的なゲノム解析、化学合成からスクリーニング、分子生物学的な実験から、事業開発や営業まで直接経験してきた僕としては、いずれ自分の技術をもって起業をしたいと思っています。一方で、軌道に乗るまでの時期は赤字になるものですし、その間の資金繰りは楽しいことではなさそうです。現在、外資系企業で働きながら、(兼業規定がないため本業と法的等の問題がなければ)副業として受託サービスを始めています。もしかすると、こうして本業で普通に働きながら、並行して事業を軌道に乗せるのは新しいスタイルかもしれません。しばらくアカデミアと共同研究などで基礎研究を積み上げ、再びビジネスモデル特許を出願して、武田で始めて中断してしまった創薬プロジェクトを再始動したいと思っています。※武田で始めた研究については、武田がすべての特許を放棄した後に、ありがたくも研究自体が僕に無償譲渡されました。ですので、僕の行動は合法的です!
始めなければ、修了しない。始めてしまえば、どうにか修了できるものです。たとえ今忙しかろうとどうであろうと、興味がおありならば始めてしまってはいかがでしょうか。