私は大手自動車会社や建設機械メーカーなどでのキャリアを通して、一貫して「電動モビリティ」の「制御/組込ソフトウェア」領域の研究・開発に携わってきました。とは言え、その領域の中でも自身が興味を持つ領域はどんどん変化しています。社会人に成り立ての20代の頃は、自身がプログラムしたソフトウェアでクルマを走らせてさえいれば楽しかったのですが、どんどん複雑かつ大規模化するシステムを前に、開発の手法自体を変えていかないと太刀打ちできないことに気づき、より上流の工程に関心がシフトしてきました。そして30代後半以降では「より良い商品を作るためにはより良い技術が必要で、より良い技術を作るためにはより良い組織が必要だ」と考えるようになりました。
今でも電動モビリティの制御開発エンジニアという肩書は変わりませんが、自身が開発する対象は単なる商品や技術から組織デザインへと、より幅広く変化してきています。
私は20代で大都市圏にて就職し仕事をしていましたが、自身のルーツである西日本から離れていることに不安を感じUターンしました(実際はJターン)。地方で働くことにようやく慣れ、自身がやりたいことは一通りやったから落ち着こうと考え始めたとき、ふと25歳~65歳の社会人人生において、40代前半の自分はまだ折り返し地点にすら到達していないことに気づき衝撃を受けました。
もう一花咲かせたいけれども、しかし自身が何をやりたいのか、何ができるのかがよくわかりません。周囲のシニアエンジニアが定年退職していく姿を見てもパッとせず、従来のエンジニアの延長にワクワク感は感じられませんでした。そういう中でエンジニアという枠から外に踏み出し、より大きく、より広く、より社会に貢献できる人材になりたいと思い、自身のスキルアップの手段としてMBAコースの受講を決めました。
他のオンライン受講可能な大学院や地元の通学形式の大学院と比較する中で、BBT選択の決め手になったのはRTOCS(Real Time Online Case Study)と卒業研究の存在です。縦の糸が「科目」単位の学びだとするなら、横の糸は「科目間」を結びつける思考力や実践力であるはずです。それらを総合的に学べるのが「RTOCSと卒業研究」であると捉えました。
実際に「マーケティング」や「ファイナンス」のような科目ごとの学びは、従来の学校教育と同じく机上の理論になってしまいテストに受かると忘れてしまいがちなところですが、RTOCSや卒業研究で繰り返し使い続けることで実践訓練を積めたと思っています。
この選択を、後日「卒業研究が無ければこんなに苦労しなくとも修了できたのに」と本気で悔やむことになるのですが(苦笑)、BBTでハードに実践的に学ぶことで、初めて自分の殻を打ち破るだけの強さを身に刻むことができたと感じています。
私が苦手としていたのは、自身でビジネスアイデアを発案し、ビジネスプランまで膨らませるアントレプレナー的な発想です。
それを習得し自身を革新するためにBBTに入学したわけですから、アントレプレナー系の科目は最優先で受講しました。その中で最初に苦戦したのが「ビジネスアイデア演習」です。大企業の枠の中で仕事をしてきた経験しかない私は、自身の頭で事業を考えたことは皆無でしたので、ビジネスアイデアなどは思い浮かびません。浮かんだとしても「こんなネタが事業になるのか」「他の人に笑われるのではないか」と周りの視線ばかり気になって全く手が進みませんでした。
しかし自身の想いを堂々と述べるクラスメイトの姿を見たり、発想というのは”想い”だけから出発して構わないのだとわかったことから、次第に「恥ずかしい」という気持ちが無くなり、自分の「夢」を語れるようになりました。自分の殻を破る重要な第一歩になりました。
実は正規の科目ではないのですが、経営戦略論などの学長科目における参考コンテンツであった「議論する力」が非常に印象に残っています。日本企業においては「議論」することを極力避けて、年功序列や阿吽の呼吸で仕事を進める、生産性の低いやり方が多いと言われています。そういう中で、ワールドスタンダードである「debate」について学んだことは学びが大きかったです。この講義があまりに難解だということで(もう退官されてしまいましたが)元ベイン・アンド・カンパニー日本支社長である後先生による補足レクチャーがあったことも面白かったです。
私は後先生と川上真史先生の講義が好きでした。両氏による「リーダーシップ」「戦略的人材マネジメント」を履修できたこと、川上先生の参考コンテンツである「組織人事ライブ:リベラルアーツ論」を受講できたことは宝物です。同じく参考コンテンツとして視聴したDeNA南野智子CEOによる「不格好だけど経営は面白い」も忘れられない講義でした。
AirCampusでのディスカッションは全ての会話がテキストとして可視化されます。よって思考を整理して論理的に発言することが各受講生には求められます。小中高の教育でも、手を動かしてノートに記述することによる熟考と記憶定着の促進が行われますが、それと同様のことがBBTでは行われます。口頭での議論だとせいぜい10名以下でしか成立しませんが、AirCampusでは最大で数十名規模での議論が約1週間ほどかけて進むため、情報量がケタ違いです。自身の発言もふくめて全てテキスト化されるので、口を濁す誤魔化し的な言い方や曖昧な言い方が通用しません。ディスカッションをする中で、極めて高度な思考力を否が応でも鍛えられます。
その一方でクラスメイトや先生たちとリアルで会える機会は比較的少ないために、ヨコやタテの関係の構築や、エレベータピッチのような対人スキル形成の面では他の通学式大学院の方が強みがあると思います。ただ、後者については敢えてMBAコースで訓練すべきか?という論点は残ります。MBAでのディスカッションの本質は、その過程を通して思考を深め、視野を広げ、そして視座を高めることにあります。
私の場合はショートスリーパーだったので、なんとか仕事と学習と家庭のバランスを確保することができていました。睡眠時間は3時間半~4時間ぐらいで過ごしましたので、2時就寝→6時起床、もしくは21時就寝→1時起床をベースにしていました。まだ子供が小さく21時くらいには家族が寝てくれていたので、家族が起きている間は家族との時間を優先しつつ、家族が寝た後は学習時間を確保することができていたと思います。またレポート提出前など時間が足りないときは仕事を調整し、フレックス出社や有給休暇取得で乗り切りました。
通勤電車の中で講義映像を視聴したこともありましたが、通勤電車の中では紙にメモがとれないのでノート派の私にとってはあまり向いていませんでした。ですので通勤中は単位取得とは関係のない、自主的に聴講できる参考コンテンツの視聴に限定していました。
学びたい科目がたくさんあるのに対し自身の時間が限られていることはわかっていたので、入学直後から2年修了を目指さずに4年計画でマイルストーンを決めて学習を進めました。初めの2年間で卒業に必要な単位を(卒論以外)取得し、3年目に選択科目に集中し、そして最後の4年目は卒業研究に集中するようにしました(※5年目で卒業研究を修了できなかったら卒業できないリスクがあるため4年計画で進行)。
会社派遣として入学したクラスメイトなどは基本2年で卒業していくのですが、必修の学長科目だけでもパンパンなのに、そこに選択科目や卒業研究まで同時に取り組む姿は大変に見えました。皆どうしても単位を取ることが目標になってしまい、広く深く講義を理解する余裕はなかったのではないかと思います。
最終的に私は4年間に35科目49単位取得し、4年目には卒業研究一本に集中して全力投球できました。苦労に見合う成果は得られたと考えています。
BBTに入学する前であっても考えることを決して苦手としていたわけではないのですが、BBTで様々な思考法や視点を広げる訓練をすることで、自身の思考力を大幅に強化することができました。
従来だとどうしても、ある立ち位置、ある粒度でしか見れずに思考が偏りがちだったのですが、自分を俯瞰して見たり、相手の立場に立って考えてみたり、より詳細に細かく考えてみたりできるようになったことで、多面的に物事を捉えられるようになったと思います。
これによって、例えば上司と話すときやメンバーと話すときであっても、話の懐を広く取って合意形成をしやすくなりますし、初対面の人と話すときでも話題を外さずに臆することなく話せるようになりました。どのような業務に取り組むときでも必要となる、基礎的なポータブルスキルを大幅に引き上げられたと感じています。
従来の私は”完璧主義”な面が強く、それを美徳とさえ考えていたところがありました。その反面、考えて答えが出せないことにぶつかるとその場で足が止まって思考停止に陥っていました。答えがないことに対しても答えを求めてしまい、身動きが取れなくなりがちで、初めてでリスクがあるテーマには挑戦できない人間でした。
しかしBBTで学ぶことでフェルミ推定や仮説思考の癖がつき「今わかっている情報だけで熟考しひとまず一歩行動に移してみる」というマインドが根付いてきたと思います。頭でっかちの完璧主義を捨てた方がPDCAをより正確に早く回せます。結果的に成果に結び付きやすくなる習慣を得られました。
未知の難しい課題に直面しても臆することなく取り組むことができるようになったことは、今後の予測できない社会を生き抜く上で重要なスキルを身につけられたということだと実感しています。
私は自分の体力が続く限り仕事をしたいです。そうして社会への貢献、自身の生き甲斐の獲得、そして将来の経済的不安を払拭していきたいと考えています。人口減少が続く日本においては生産年齢人口が急速に減っていくため、自分のスキルと体力さえ維持していればいくらでも仕事をし続けるニーズは見つかります。会社に依存することなく能動的に自分が活躍できる場を見つけ、そして実際に取り組んでいくという攻めの姿勢を貫き続けたいと考えています。その場にとどまって守りに入る時間は惜しいものです。常に新しいこと、難しい課題、新しい目標を見つけてそれに向かって走り続けたいです。アラフィフやアラ還になっても常にギラギラと新しい機会を伺い、隙あらば次のステップ、次のチャンスに飛びつくような攻めのスタイルを維持していくつもりです。
MBAコースを受講することで、何を学びたいのか、自分をどう変えたいのか、という「目的意識」を明確に持ってから入学することをお勧めします。BBT在学中に徐々に自分の志を明確にしていくこともアリですが、学んでいる間は怒涛のように時間が過ぎていきます。自分の将来を落ち着いて考える時間が取れない可能性もあります。学びの機会を最大限有意義にするためにも、入学前の段階で自分自身を見つめ直し、MBAを取得する目的とモチベーションを明確化しておいた方が良いです。
最後になりますが、BBTに少しでも興味を持ったのなら、その直観を大事にしてください。講義でも学びますが、直観というのはヤマ勘とは異なり、その人の過去の知識や経験などの蓄積に基づく無意識の、その人固有の価値観に基づいたものです。迷ったときは、自分の心を信じて、一か八か飛び込んでみることも大事だと思います。