過去の事例が当てはまらない?ゼロから情報を収集/構造化して事実を整理する
皆さん「侍ジャパン」の名前を一度は耳にしたことがあると思います。侍ジャパンとは全世代・プロアマを問わない野球日本代表のことを指しています。トップチームはプロ野球選手を中心に構成されていますが、U-23やU-18などといった年齢別や女子チームのカテゴリがあり、それぞれのカテゴリにおいて世界と戦うチームの総称なのです。
そんな侍ジャパンですが、この組織は2013年から始動したためまだ歴史が浅く、他のスポーツや海外事例を研究しながら、手探りでマーケティングを行っている状態でした。特にマーケティング面においては、トップチームを含めた主催試合の観客動員が伸び悩んでおり、集客改善は喫緊の課題として認識されていました。
また同じ野球というスポーツですが、プロ野球とは異なるアプローチを取る必要性を感じていました。なぜなら侍ジャパンは「地域性が無い」「試合が恒常的に開催されていない」など、プロ野球と前提条件が異なる部分がいくつかあるからです。
次に、観客席を分解した要素から2つを選び、縦軸と横軸を作ってみましょう。例えば、横軸に【席の種類】の各要素を、縦軸に【場所】【販売状況】【販売経路】の各要素を置きます。すると下図のようなマトリックスができます。
したがって、従来の「プロ野球」というフレームワークにはめて打ち手を考えるのではなく、ゼロベースで事実を明らかにしながら打ち手を創出していくというプロセスを踏むことにしました。ここでは、その際に考えていたことや集客改善における事例などの一部をお話しできればと思います。
さて、まずは集客の全体像を把握するためにMECEに情報を整理することからスタートしました。MECEとは、は論理的思考の基本で、「モレなく・ダブりなく」という英語の頭文字を取ったものです。トランプを例に挙げると、「スペード」、「ハード」、「ダイヤ」、「クローバー」「ジョーカー」の5種類に分類できますね。これは漏れもダブりもない状態なのでMECEといえるでしょう。では職業の分類はどうでしょうか。仮に「学生」「会社員」「自営業」という属性を挙げた場合、これはMECEと言えません。なぜなら社会人学生という存在がありますし、会社員が副業で自営業をしているケースもあるでしょう。分類がダブっていますよね。多くの情報を整理する時、MECEの考えで分類することは、対象を正しく理解するための重要なテクニックとなります。
構造化して解決の糸口を発見する
まずはこのMECEの考え方で、観客席を考えられる限り多くの切り口で分解します。この時、分解の切り口がダブっていないか、抜けはないか、をチェックしながら考える事がポイントです。例えば、上記のように観客席に座る人を職業別に分解しようと思っても、職業自体が社会人学生のようにダブりがあるので、分解できません。また「試合の見やすさ」という切り口はどうでしょうか。テレビ中継の視点であるバックネット裏は見やすいかもしれませんが、人によって見たいポイントが異なるので、これも分解軸としては適しません。
このように軸を取って情報を整理する際は、一発でピッタリとハマる軸を出せるわけではありません。まずは色々な分解軸を出し、仮説を立てながら進めます。
さて、下図は観客席をMECEで分解する時の「切り口」の例を示しています。【席の種類】【場所】【販売状況】【販売経路】などを挙げました。まずは自由席か指定席かという【種類】で分解できますね。また、スタジアムの観客席をバックネット裏、ライト側、レフト側、一塁側、三塁側という形で【場所】で分解することもできます。
今回のテーマである「観客動員」の視点からは【販売状況】という視点でも分解できます。売れた席、売れなかった席という形です。さらに売れた席は、【性別】【年代】などで分解することができます。他にも【販売経路】など、どのような切り口で分解できるか、思いつく限り整理しました。これらは全て思考の切り口であり、次のステップに繋がる「軸」と考えることができます。
同様に他の切り口を元にマトリックスを作ります。4つの切り口があると、合計6通りのマトリックスのパターンができます。
そこで、出来上がったマトリックスから今回の課題に適切な組み合わせを考えてみました。今回の課題は「観客席を埋めること」なので、【販売状況】は重要な軸です。また、もう1つの軸は計測しやすく効果性の見込める【場所】を採用しました。
このようなプロセスを通して、観客席という大きな塊を【販売状況】と【場所】の2軸で切り取り、問題をより具体的に考えていくことができるようになりました。
そして、過去の壮行試合の結果をこのマトリックスに当てはめると、三塁側・レフト側席の販売状況が課題であることを発見しました。そしてこの原因は、野球観戦独自の事情によるものでした。野球観戦はまずバックネット裏をコアなファンが購入します。そしてホーム球場側の応援団が一塁側、ライト側を、ビジター側の応援団が三塁側、レフト側を購入します。例えば東京ドームで巨人阪神戦が行われた場合、一塁側・ライト側に巨人ファンが、三塁側、レフト側は阪神ファンが購入します。
一方、侍ジャパンの試合の場合は、ホーム側は日本代表の応援団が座りますが、ビジター側は対戦国の応援団の席になります。するとビジター側は対戦国のファンが少ないので、空席率が比較的高くなってしまいます。 これらのプロセスを経て、優先すべき課題はレフト側、三塁側の販売ということが明らかになりました。
ここまで、問題の対象になる塊を複数のMECEとなる切り口で分解し、2つ以上の分解した軸を組み合わせて検証するプロセスをご紹介しました。一見複雑に見える問題から、シンプルな原因を見出だせ得る方法です。上手くハマる分類の切り口を出すことが難しいのですが、構造化・分解を習慣的に行うことでそのセンスは徐々に磨かれていくと思います。