社員全員が問題に対する共通認識を持つべき
また、コントロールできる/できないという考え方にアカウンティングの要素を加え、数値化することも行いました。数字を分析し、インパクトの大きな要素を探していったのです。その要素が見えてきたら利益改善を阻害する本質的問題と言えるでしょう。
具体的にはROAツリーを使った分析です。ROAとは総資本利益率(Return On Assets)の略で、会社が持つ資産に対してどれだけの利益を上げたかの指標になります。この指標を売上や総資本など、様々な要素で分解した枝分かれの図をROAツリーと言います。
このROAツリーによって、資本が有効活用されているか、利益に対して強いインパクトを出している要素は何かなどがわかります。売上の推移と同様に、できるだけ長期間の推移を見ることで、会社の体質や、これまでの取り組みとの関連性を検証することができます。
そこで、当社の長期間に渡る費用構造の推移を上記のツリー形状に当てはめてみました。すると、近年の販管費率が急に上昇していることがわかりました。ここまで露骨な変化はビジネススクールの教科書でもなかなかありません。販管費比率がここ数年急に増えていたことが、利益圧迫の主な要因ということがわかりました。
そこでこのROAツリーを社内に公開し、メンバーで対策を練ることにしました。そして販管費を減らす事を私達の「やるべきこと」として合意しました。その上で販管費を減らすための具体的な解決策とアクションプランを担当者と一緒になって考えました。数字というファクトを示すことで自ら問題意識を持ち、解決に向けて取り組む意識を持ってもらうことが大切だと考えています。
余談になりますが、社内では私が講師となって経理関係のセミナーなど、経営に関する勉強会を定期的に開催しています。このROAツリーをはじめ、様々な経営指標は経営者が見るものと思われがちですが、社内のメンバーもこのような概念理解をすると、他人事から自分事へと意識が高まっていくように感じています。
方向性が定まった後は具体策を検討する
さて、具体的な改善項目としては、以下のような内容が出てきました。
・生産設備の更新状況をチェックし、新規設備投資の必要性を検証する。(※最もインパクトがありました)
・外注しているものを社内でできないか検討する。
・時節柄、人員の減少が見込まれるので若手を積極採用し、一人あたりの生産効率を向上させる。
これらは全て「コントロールできること」に当てはまるものばかりです。ということは自分たちがやれば成果が出ます。これらの取り組みをまとめ、経営の道しるべとして「設備と組織の若返り」というテーマを設定し、全社を上げて販管費率の減少を目指しました。 なお実際の取り組みに当たっては、それぞれの担当者にはコントロールできることに集中してもらえるよう、上述のようにコントロール内の業務について評価をするよう社内の仕組みを整えました。
このような取り組みを2年間継続した結果、営業利益が10%以上伸びました。これは皆がそれぞれの持ち分を存分に発揮した結果です。このようなメンバーと一緒に仕事ができる機会があったことをありがたいと思っています。
様々な経営指標は経営者だけでなく、現場の組織単位でも取り組みの内容について考えるためには重要な視点になります。漠然と「売上が上がらない」「利益が出ない」と悩んでいる方は、ROAツリー作成などを通じて現状を把握されてみてはいかがでしょうか。そして関係者でこの「道しるべ」を共有することが、問題意識の共有にもつながり、解決に向けた取り組みができると考えています。