垣根を越えて全体俯瞰の視点で考えることの大切さを身にしみて感じた
私は2005年にキユーピーに入社後、国内工場とタイにあるグループの現地法人での勤務を経て、2016年に帰国しました。現在は、本社で商品の原料となる油脂の購買を担当しています。
キユーピーを象徴する商品であるマヨネーズは、約7割が油です。したがって、油はマヨネーズにとって非常に大切な原料となります。私の業務は、主にメーカー様・商社様などと商談をし、植物油の購買を行うことです。刻々と変化する市況を見ながら購買の意思決定をする今の業務は、責任が重大であるとともに、やりがいも感じられます。よい意思決定ができるよう、自分自身しっかりと世の中の動きをみるよう心がけています。
さて、先に自己紹介したとおり今は国内にて勤務していますが、以前は数年間タイ(キユーピータイランド)に赴任していました。タイでは商品の生産全体をサポートするという任務を担当しており、現場と経営の橋渡しとして駆け回っていました。たとえば、既存の事業をどうマネージするか?新しいプロジェクトをどう立ち上げるか?生産現場の効率をどう改善するか?など、様々な切り口から動いていましたね。
生産に加え、技術や経理、購買、総務、人事、R&D、そして営業など様々なセクションがある中で、特に生産に関わる人数の割合は大きかったです。だからといって生産だけを見ていても全体として出来ることは限られてしまうので、バリューチェーンの視点を意識して関連度の高い他のセクションを巻き込むことを大切にしていました。中でも顧客のフロントに立つ営業の巻き込みは重要です。
そういう意味で、本当にBBTで学んだことを活かすことが出来たと思います。BBTの受講生は問題解決思考の授業やRTOCS(Real Time Online Case Study)に取り組むことで「経営者の立場で物事を考える」癖が嫌でも身につきます。その癖があったからこそ、生産という殻の中だけで思考するのではなく、経営の観点から業務に当たれたのだと思います。その過程では本当に様々な気づきがありました。「あ、全体を俯瞰してみるってこういうことなのか」と…。キユーピータイランドへの赴任は、私の中で大きな経験値になったと振り返ります。
そこで、この記事においてはタイでの様々な改善活動の中でとても重要なアプローチとなった「見える化」に関するお話しができればと思います。
現場と経営の間で頻発していたコンフリクトの正体とは?
さて、タイの現地法人での活動を通じて徐々に気づいてきたのが、摩擦(コンフリクト)がいたるところで起きていたということです。現場と経営でうまくコミュニケーションが取れていない、すなわちお互い意思疎通が充分にできていない様子がうかがえました。それにより全体としてパフォーマンスが低下しており、この状況が長期化すると業績への影響につながりかねないと感じ、対処すべき課題として意識するようになりました。
では、この摩擦現象はなぜ起こっていたのか?それぞれの言い分をヒアリングしたり、いつからこのような状況になったかを調べたりしていくうちに、これは企業成長の過程における特有の現象だと気づきました。例えばそれを説明する理論として、グレイナーの企業成長モデルという考え方があります。
課題解決にむけた「見える化」の徹底
まずはコンフリクトに伴い出てくる「様々な意見」を整理してまとめ上げることからスタートしました。現場にはこういう考えがある、問題がある、こうすべきだという意見がある…。一方で経営はこう考えている、こういうリクエストがある…。それらを1枚の絵に書き起こすことでお互いが具体的に何を思っているかを言葉として理解できるようにしました。たとえば以下の図のイメージです。
また、この絵を描く際に気をつけることとして単純に意見を整理するだけでなく、整理事項から共通の目標を導き出すことが重要です。そうでないと「なんとなく分かったけどそれで?」となってしまいますよね。何を達成すればよいのか?何を問題として認識すればよいのか?向かうべき先の共通認識をとり、その認識をベースにすべてを考えてもらうように働きかけていくのです。まずはこういった形でコンセンサスをとっていくことが、以降のプロセスにおいて大切だと思っています。
さて、コンセンサスが取れてきた次にすることとして、JD(ジョブディスクリプション)の作成が挙げられます。目的は権限委譲型組織への移行なので、あらためて新体制におけるリーダーや現場スタッフが何をすべきか?何のために存在するか?を言語化したのです。これは、例えば以下の図として描くことができます。
JDを明確にして各担当に承認を得ることで、権限委譲化を更にドライブさせることができます。トップとしても誰が何をやっているかが理解できるため安心できますし、現場サイドとしてもJDベースで動くことができるので、自分のやるべきことや担当領域がよりハッキリします。よって、お互いがお互いの職務と方向性を理解でき、これまでのような消耗するだけのコンフリクトは減少します。
以上のような取り組みを通じて、次なる企業成長のステップに足を踏み入れるきっかけを徐々に作ることが出来ました。お互いがお互いのことをわかっている…、ある意味で当たり前なことかもしれませんが、組織状況によっては難しいことだと思います。このような場合は、単純にコミュニケーションの回数を増やすだけではなく、とにかく言語化・見える化を推進することが有効に働くかと思います。